2022年麻布中 国語の入試問題を紹介します。

2022/9/8

エクタス国語科より麻布中

試験時間60分 満点60点
物語文1題 文字数約7500字 12問
解答形式 記述1~5行の枠 字数制限なし 記号3問

物語文 出典はくどうれいん『氷柱の声』2021年7月初版からの出題でした。
2011年2月の終わり、岩手県の高校に通う伊智花(いちか)は、高校の美術室に一人でこもり、絵画コンクールに向けて絵を書いていました。キャンバスには大きな滝の絵。亡くなった祖母が大好きだった不動の滝を、祖母に捧げるような気持ちで、祖母と対話をしているような気持ちで夢中で描いていました。2011年3月11日、伊智花が自宅にいる時、大きな地震におそわれます。テレビには大きな津波の映像。その後、学校はしばらく休校します。4月末、新学期がようやく始まり、伊智花は改めて集大成の滝を描こうとします。7月のある日、顧問の先生から被災地に絵画を届けてみないかと誘われます。完成したニセアカシアの絵について取材が入りますが、評価されたのは絵よりも、「顔を上げて」というタイトルのことばかりでした。それからの一か月間、伊智花は不動の滝の絵を力いっぱい描きます。自分が今までに描いたすべての絵の中でいちばん力強く、「怒濤(どとう)」と名付けて出展します。しかし高校生活最後のコンクールは最優秀賞を逃してしまいます。納得のいかない伊智花は絵画を蹴り飛ばそうとしますが、とうとうできずに、滝の絵を抱きしめていました。

問6では、伊智花を取材する記者の筆が進まない理由について説明します。問10では、「滝の絵」が賞をとれなかったのはなぜだと伊智花が理解したのか説明します。問12(1)では、「不動の滝の大好きな祖母に捧げるような気持ちで、祖母と対話するような気持ちで」描いていた伊智花は、震災を経た後に、滝の絵をどのような思いで描くようになったか、震災以降の絵に向かう姿勢の変化を、二つの段階に分けて説明します。(2)では「ひとりきり、私は私の絵の滝をだきしめていた」とはどのようなことを表しているのか説明します。

ニセアカシアの絵について、記者から「顔をあげて」というタイトルに込められた思いをたずねられた伊智花は、描いた絵へのこだわりではなく、「被災地に向けてメッセージを届けようとする高校生」を求めているのだろうと感じ取っています。記者が「希望」を思わせる言葉を伊智花に期待していたにもかかわらず、伊智花の返答は、被災地に対して申し訳なく思う気持ちや、「絆」「がんばろう」と伝えることはできないといったものであり、被災地に届けるにふさわしい、希望に満ちた応援メッセージではありませんでした。
震災直後は、今までの集大成として不動の滝の絵を描こうと集中し、賞も意識しながら描いていましたが、ニセアカシアの絵を描いた後、被災した人たちに希望や絆、前向きさを感じさせる作品が求められることに違和感をもち、その違和感を振り払うように、祖母や賞のことも忘れて、自分の中にある怒りやわだかまりを絵にぶつけるかたちで描くようになりました。自分の描いた絵が周りから評価されなかったのはなぜなのか。世界史の榊(さかき)先生から「今このご時世で激しく水が押し寄せてくるうえ、『怒濤』というタイトルはかなり時流に反する」と指摘されます。震災直後の時世に、津波を連想させるような、力強く水が流れるさまがリアルに描かれ、荒れ狂う大波を意味する「怒濤」というタイトルは、あまりにもふさわしくないから最優秀賞には選ばれなかったのだと伊智花は気づいたのです。納得のいかない伊智花は自分の絵を蹴り飛ばそうとしますが、全力で描かれた作品に深い愛情を感じていたので、絵を抱きしめたのですね。
震災直後という時世と、純粋に絵にこだわる高校生伊智花。「顔を上げて」・「怒濤」の作品の評価と伊智花の思い。文章のできごとを読み、伊智花の心情と変化を丁寧に記述する問題でした。

以上、お読みいただきありがとうございました。今後もさまざまな国語文章に触れ、学習に取り組んでいきましょう。(佐藤)

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