2018 御三家の哲学①

2018/7/2

エクタス国語科より開成中

 

当連載では、本年の最難関中学の国語科・入試問題で扱われた文章のテーマから、いくつかの考察を加えてまいります。個々の設問の細部よりは、本文にもられたであろう思想を掬い取り、今日的な意義を考える場とさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。


 


~開成中の出題から~


キャリアウーマンの妻、心の声。家事に勤しむ、絵描きの夫。ばりばり働き、家計を支える私。夫にも収入ができたら、私は一体、なんのために…。いや、人それぞれ、得意なもので頑張れば大丈夫(夫)。なんだか、居場所ができた気がする。(青山美智子「きまじめな卵焼き」)


 


主人公の女性は、好きなことに熱中し無収入の夫が、自身の苦手な家事・育児を買って出てくれたことで、仕事上のキャリアに自身の存在意義を見出すことができたようです。当然、そこには、家計を支えているという自負心が伴います。しかし、夫の側にも雑収入が発生していたことを知り、また、珍しく幼稚園に子どもを迎えに行ったとき、母仲間に入れず、言いしれぬ疎外感を感じます。さらに、料理作りもままならない自分にいらだち、私は一体、何のために生きているのかと落胆します。そんなとき、夫が、うまく励ましてくれて、彼女は、自分らしく頑張れば大丈夫だと希望を取り戻すことができました。


 


 彼女のつまずきの原因は、どこにあったのでしょうか?得意でないこと(=家事)に、無理に取り組もうとするとき、人は、心のバランスを失って、行き詰まってしまうのかもしれませんね。そこには、納得感が、決定的に欠けています。他方、得意分野(=仕事、経済的支援)に、極度にとらわれすぎると、それが少しでもおびやかされようかというとき、アイデンティティの危機に見舞われるといえるのかもしれません。


 


 今日の、高度に複雑化した社会に身を置きながら、真の「自分らしさ」を探求することは、決して容易ではないと思われます。しかし、消極的な表現ながら、”やりたくないことを無理にやらず”、また、”好きなことにもこだわりすぎず(いつでも手放すつもりで)”、ごく自然体の自身を他者にさらけ出す覚悟の果てに、何らかのヒントがみつかるのかもしれません。


 


 現代的な自己存在のあり方について、考えるきっかけを与えてくれた、開成中の出題でした。


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