試験時間50分 満点100点
随筆文 6問 物語文6問
解答形式 字数制限なし
大問1随筆文 藤原辰史「九回裏の『捨てる』考える」より。こちらは雑誌(2023年12月発刊)に収録された論考です。
文章は藤原辰史さんのインタビュー内容です。出版界の廃棄問題を機に、器の傷やひびを愛して生命を吹き込む「金継ぎ」の思想から、物を簡単に捨てる経済システムを見直します。かつて再利用可能な物は「クズ」と呼ばれ循環していたが、現代は十把一絡げに「生ゴミ」と呼び想像力を貧困にしています。このシステムは労働者や障害者を排除する社会に繋がるため、私たちは心の傷や不完全さをそのまま愛する心構えを持ち、日々の暮らしの「捨てる」行為から変革すべきだと論じます。
現代の私たちは、商品に少しでも傷があることを異常なほど恐れ、将来ゴミになるものを大量に使って流通させています。しかし、「傷がついたプロセスすらも愛する」という逆転の発想を持つことで、捨てるはずだったものに新しい価値や美しさを見出すことができるのです。ここで、題名にあるように、「九回裏」とあります。野球でいう最終回のことです。「SDGs」と一発逆転のホームランを狙うような華やかなスローガンを掲げるのではなく、まずは足元から「四球(フォアボール)でもいいから着実に塁を埋めていく」ことが大切です。毎日の暮らしの中の捨てるということを見直し、捨てるものを地道に再利用していくことが大切なのですね。桜蔭中では過去にも環境問題をテーマにした説明文が出題されています。
大問2物語文 出典は木村綾子「月の子」『本が繋ぐ』(2025年10月刊行)より。
小五の「私」は、いじめの標的であるイトケの存在に安心しつつ、図書室で『はてしない物語』を読みふけります。ある日いじめの空気に耐えかねて、イトケをかばうような行動を起こした私は、偽善者とみなされ、孤立してしまいます。物語の主人公バスチアンが現実を忘れ肥大化していく姿に自らを重ね、彼の孤立を恐れて本を閉じたが、やがてクラスの無視は解かれます。卒業式の日、イトケから「あんたのことが一番嫌いだった」と告げられた私は、今もその眼差しを胸に悔恨を抱えているのです。
主人公の「私」は調子がいいけれど臆病だったり、頑固だったり、天邪鬼だったりして、自分でもコントロールできていません。それは、自分がいじめられたり孤独になったりすることを何よりも恐れているからであり、イトケがいじめられているのを見ることも、自分がいじめられるのを思い出して耐えられない。それが、いじめが起きている場では、その雰囲気に耐えきれなくて、身勝手に腹を立てイトケをかばうような行動を起こします。しかし、結局、友だちの輪に戻ったときにはイトケを孤立させる輪の中にいました。この行動も身勝手といえます。卒業式の帰り道、イトケは最初で最後に「私」の目をまっすぐ見て言い放ったセリフ。
「あんたのことが一番キライだった」
いまも記憶の中でイトケが私を睨み続けていると感じるのはなぜでしょうか。
それは、望みを叶えるバスチアンとは違い、自分の弱さ、身勝手さを受け入れ、自ら変わろうとすることは自分にはできないと考え、「私」は今もその思いを抱き続けているからなのです。
学校という小さな社会の中で、誰もが一度は「自分の居場所」や「他者との関係」に悩んだことがあるのではないでしょうか。不器用な少女の孤立、いじめの複雑な心理、そして『はてしない物語』という一冊の本を通して描かれる自我の葛藤について考えさせる文章でした。
以上、お読みいただきありがとうございました。今後もさまざまな国語文章に触れ、学習に取り組んでいきましょう。(佐藤)